厚生労働省の報告によると、現在習慣的に喫煙をしている人の割合は15.7%で、ここ10年で減少傾向にあると言われています。
タバコが人の健康に影響を与えることは広く知られるようになりましたが、飼い主が喫煙者だと犬にはどんな影響が出るのでしょうか。
今回は「タバコが犬の健康にどんな影響を与えるのか」や「犬がタバコの影響を受けやすい理由」を解説いたしますので、ぜひ最後までご覧ください。
<目次>
飼い主がタバコを吸うと犬も煙を吸っている?!

「主流煙」と「副流煙」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
主流煙は喫煙者が吸い込む煙のことで副流煙はタバコから出る煙のことをいいます。
全国健康保険協会の報告によると、副流煙に含まれる有害物質は主流煙よりも一酸化炭素が4.7倍、ニコチンが2.8倍、アンモニアが46倍多く、発がん性物質のベンゾピレンやニトロソアミンも含まれています。
2007年に行われた調査では、喫煙者の家庭の犬の尿内からコチニンが検出されているので、犬の生活空間に喫煙者がいると犬も日常的にタバコの煙を体に取り入れてしまっていることが伺えます。
▼コチニンってなんですか?
タバコの煙に含まれるニコチンが体内で代謝されてできる物質のこと
ニコチンよりも体内に長く残留するため喫煙や受動喫煙の指標として利用される
タバコの煙には多くの有害物質が含まれていますが、犬の体に取り込まれた有害物質は犬になんの影響もないのでしょうか。
次章で詳しくみていきましょう。
「タバコの煙で愛犬の寿命が縮む?!」犬に起きる健康リスク

喫煙をしている方には耳が痛い話かもしれませんが、タバコの煙はさまざまな犬の病気の発症リスクを高くします。
犬(小型犬)の平均寿命は15歳以上になりましたが、タバコの有害物質が犬の寿命に大きく影響を与えてしまうかもしれません。
▼タバコの煙で犬に起きる健康リスク
・呼吸器疾患の発症を高める
・血液の流れが悪くなる
・がんの発症を高める
・アトピー性皮膚炎の発症を高める
・肺疾患の発症を高める
・呼吸器疾患の発症を高める
タバコの煙に含まれる有害物質は肺や気道に炎症を引き起こすため、慢性気管支炎や喘息の発症リスクを高くします。
また空気を運ぶ気管の張りがなくなったり、潰れてしまう病気を「気管虚脱」といいますが、気管虚脱の発症や症状悪化の原因のひとつにタバコの煙があげられています。
・血液の流れが悪くなる
タバコの煙には一酸化炭素が含まれています。
一酸化炭素は、酸素を運ぶ血中のヘモグロビンと結びつき、酸素を運ぶ能力を低下させます。慢性的な酸素欠乏状態になると、酸素の欠乏を補おうとして赤血球が増加するので、血液がドロドロになり、血液の流れが悪くなります。
また血小板の凝集作用を高めて血栓(血の塊)を起こしやすくしたり、血管の壁を傷つけたり、善玉コレストロールを低下させて動脈硬化を進行させます。
・がんの発症を高める
先ほどタバコの煙には発がん性物質が含まれるとお話しましたが、タバコの煙を犬が吸うことで「肺がん」「副鼻腔癌」「鼻腔がん」「膀胱がん」の発症率が高くなると言われており、飼い主が喫煙者の場合がんの発症率は非喫煙者の飼い主と比べて約1.6倍高くなるそうです。
また犬種によっても発症しやすいがんに違いがあります。
長頭種は鼻が長い分、鼻がフィルターの役割をしてしまい「鼻のがん」が発症しやすく、短頭種では鼻が短い分、発がん物質が直接肺に到達しやすいため「肺がん」を発症することが多いようです。
・アトピー性皮膚炎の発症を高める
人の子供の場合、副流煙がアトピー性皮膚炎の発症に関連しているのではないかと言われていますが、犬の場合もアトピー性皮膚炎の発症リスクが高くなるようです。
アトピー性皮膚炎は慢性的なかゆみを伴う皮膚病のことで、皮膚のバリア機能が低下し、アレルギー反応や外部からの刺激によって炎症が起こります。
遺伝的な原因で発症することもありますが、タバコの煙に含まれる有害物質はアレルギーやかゆみを生じさせる原因となるので、アトピー性皮膚炎を発症するリスクが高くなると考えられています。
・肺疾患の発症を高める
喫煙者と非喫煙者の家庭で飼われているヨークシャー30匹を調査したところ、喫煙者の家庭で飼われていたヨークシャーテリアは免疫細胞の「マクロファージ」が増加し、炭粉沈着症がみられたそうです。
炭粉沈着症はマクロファージの細胞質に炭素が溜まった状態のことで、肺疾患を発症する原因になると言われています。
そのため、非喫煙家庭に比べると肺疾患の発症リスクが高まると言われています。
どうして犬はタバコの影響を受けやすいの?

タバコの煙は犬にさまざまな健康リスクを与えることがわかりました。
では、どうして犬はタバコの影響を受けやすいのでしょうか。
考えられる原因をまとめてみました。
▼犬がタバコの影響を受けやすい原因
・三次喫煙をしやすい
・床に近い環境で生活している
・有害物質を口から接種しやすい
・三次喫煙をしやすい
三次喫煙はタバコの煙が消えたあとに残る有害物質にさらされることをいいます。
タバコの煙はソファーやカーペット、衣服などに付着し長時間残留します。
この残留物には有害物質が含まれており、時間が経つと空気中に再放出されることがあります。
犬が日常生活を送る場所で喫煙をしてしまうと、長期間にわたって有害物質にさらされるやすくなります。
・床に近い環境で生活している
犬は床に近いところで生活していますね。
有害物質を含むタバコの煙は重いので、下の空間にたまります。
犬は床から近い位置で過ごす時間が多いので、喫煙者と暮らす犬は有害物質を取り込みやすい環境で過ごしているといえます。
・有害物質を口から接種しやすい
タバコの有害物質は飼い主さんの服やソファーなどに付着しているとお話しました。
飼い主さんの衣類を噛んだり、ソファーやカーペットを舐めたりすることで、口から有害物質を接種しやすくなります。
タバコは犬の誤飲リスクも高い「犬の誤飲物 4位はタバコ」

タバコが犬に与える健康リスクは煙だけではありません。
ペット保険のペットメディカルサポート株式会社が保険加入者734名に行ったアンケートによると犬の誤飲物で多かったものランキングの4位にタバコがランクインしています。
▼犬・猫の誤飲物
タバコなんて食べないと思うかもしれませんが、好奇心から口に入れたり退屈だからちょっと遊んでいるうちに飲み込むといった事故は十分考えられるので、タバコや吸い殻の管理は注意が必要です。
タバコを誤飲するとニコチン中毒をおこし、高血圧、ふるえ、頻脈、徐脈、呼吸抑制といった症状があらわれます。
体の小さい小型犬ではタバコ1本の誤飲でも中毒を起こす恐れがあるので、犬が過ごす空間にタバコを持ち込まないなど誤飲を起こさせない工夫が必要です。
誤飲後の経過時間によって動物病院での処置が変わるので、誤飲をしたかもと思ったらすぐに動物病院に電話をして指示を仰ぎましょう。

犬の健康を願う飼い主さんは多いと思いますが、タバコが犬の健康に与える影響は非常に大きく、少量の煙や有害物質であっても体の小さい犬にとっては命を脅かす大問題になりかねません。
愛犬が安心して健康に過ごせる空間を作ってあげたいですね。
<参考URL>
成人喫煙率 公益財団法人 健康・体力づくり事業財団
>https://www.health-net.or.jp/tobacco/statistics/kokumin_kenkou_eiyou_report.html
ご存じですか?たばこの煙は周囲の人の健康にも害を及ぼします 全国健康保険協会
>https://www.kyoukaikenpo.or.jp/shibu/akita/cat070/4695-81153/
気管・気管支軟化症をともなった慢性気管支炎 相模が丘動物病院
>https://www.sagamigaoka-ac.com/dr_file/case-Res05a.html
Association between passive smoking and atopic dermatitis in dogs
>https://www.academia.edu/29376157/Association_between_passive_smoking_and_atopic_dermatitis_in_dogs
ペットにも受動喫煙の影響?
>https://www.nippatsu-kenpo.or.jp/health/smoke/smoke202402.pdf
ペットにも受動喫煙による健康被害は存在するのか,またその特徴は何か?
>https://www.menicon.co.jp/company/life-science/nosmoking/20171104/poster.pdf
犬・猫とタバコの危険性
>https://www.sowa-kai.jp/mm/wp/wp-content/uploads/2023/04/kinen-3.pdf
タバコの誤食
>https://www.fpa.or.jp/library/kusuriQA/33.pdf
<画像元>
canva

・(元)認定動物看護師
・一般社団法人日本小動物獣医師会 動物診療助手
やんちゃなミックス犬とおっとりトイプードルと暮らす。
大学在学中に「病気になる前の予防が一番大事」と気づき、
ペットフードやペットサプリメントの会社に就職。
「食」に関するさまざまな知識を身につける。
愛犬を亡くしたときに
「もっと色んな情報を知っておけば」と感じた後悔を
「他の飼い主さんにはさせたくない」との思いから、
ライター活動を開始。
「勉強になった・信頼・わかりやすい」を目標に情報を発信しています。

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