「愛犬の歯磨きを毎日する」わかってはいるけれど実行するのはなかなか難しいですね。
そうこうしているうちに歯石がたまって、なんとか自宅で簡単に歯石取りができないかなと考えている方も多いのではないでしょうか。
「塗ったら歯石がポロっと取れる」「歯石を溶かす」といった謳い文句の商品を目にするとつい手に取りたくなりますが、情報を鵜呑みにしないほうがいい場合もあります。
正しい情報を覚えておくと愛犬のデンタルケアや商品選びに役立つので、今回ご紹介する内容をぜひ参考にしてみてくださいね。
<目次>
そもそも「歯石」ってなんですか?

歯磨きを頑張っているのにいつの間にか歯石がついていることがありますね。
そもそも「歯石」とはなんでしょうか。
よく耳にする「歯垢」や「バイオフィルム」との違いも含めて覚えていきましょう。
「歯垢」ってなんですか?
犬の口の中には無数の細菌がいます。
この細菌たちは犬の歯に付着した食べかすに集まって塊を形成します。
この細菌の塊のことを「歯垢」といいます。
「バイオフィルム」ってなんですか?
塊になった細菌たち(歯垢)は自分たちの身を守るためにヌメヌメとした膜を作り出します。
この膜のことを「バイオフィルム」といいます。
バイオフィルムは非常にやっかいな膜で水や唾液といった軽い刺激では洗い流されず、抗菌剤も通しにくくなります。
「歯石」ってなんですか?
バイオフィルムに守られた細菌たち(歯垢)は唾液中のミネラル成分と結びついて、石のように固く結晶化します。
これが「歯石」です。
歯石が付着すると歯に凹凸ができるので、歯垢や食べかすが付着しやすくなります。
そのため、歯石ができると雪だるま式に新たな歯石が付着するという悪循環を生み出してしまいます。
歯垢やバイオフィルムは歯ブラシや歯磨きシートで落とすことができますが、磨き残した場所や歯ブラシが当たりにくい場所には歯垢がのこり、歯石に変わっていってしまいます。
歯周病の原因は「歯石」ではない?!

歯石がどういうものか、歯石がどうやってできるのかわかったところで、ひとつ質問です。
「歯石=取らないといけないもの」と思っている理由はいったいなんでしょうか。
「見た目が良くないから」「口臭がきついから」「歯石はよくないと聞いたから」などいろいろな理由があると思いますが、一番は「歯周病にならないために歯石を取りたい」と思っている方が多いのではないでしょうか。
しかし、実は歯石は歯周病の直接の原因ではありません。
歯周病は口の中にいる歯周病菌が歯と歯茎の隙間の歯周ポケットに侵入し、歯周ポケットの内部で炎症を起こすことで引き起こされます。
もちろん最初にお話したように歯石があると歯垢や食べかすが付着しやすくなり、細菌が増殖しやすい環境を作り出してしまうので無い方がいいのですが、歯石を落とすことばかりに意識を向けていると歯周病対策になっていないことがあるので注意が必要です。
歯石を除去しても歯周病は進行するってホント?

先ほど「歯石を落とすことばかりに意識を向けると歯周病対策になっていないことがある」とお話しましたね。
実は歯石を除去しても歯周病にかかったり進行してしまうケースがあります。
その理由をより詳しくみていきましょう。
▼歯石を除去しても歯周病が進行するのはなぜ?
①「歯石は目に見える場所以外にもあるから」
②「歯周ポケットをケアしないと歯周病対策にならないから」
①「歯石は目に見える場所以外にもあるから」
歯石は1種類だけではなく、2種類あります。
▼歯石には「縁上歯石」と「縁下歯石」の2種類あります
歯茎の上に付着するのが「縁上歯石」歯茎より下に付着するのが「縁下歯石」です。
縁上歯石は発見しやすいのですが、縁下歯石は歯茎の下にできるので見つけることが困難です。
縁下歯石を作り出しているのは、歯周ポケットに潜む菌や歯周病菌です。
そのため歯石をきれいにしたつもりでも、実は目に見えない場所に歯石が溜まっており、歯周病も進行している可能性があります。
②「歯周ポケットをケアしないと歯周病対策にならないから」
歯周病菌は酸素が苦手な菌(嫌気性菌)です。
そのため、酸素に当たりにくい歯の隙間や歯周ポケットに潜り込みます。
そして口内環境の悪化で起こった出血(血液)を栄養源にして増殖し、歯周病を引き起こします。
そのため歯周病を予防するには歯を磨くだけではなく、歯ブラシや獣医師によるケアで歯周ポケットもきれいにしないと歯周病対策にはなりません。
「自宅での歯石取りの落とし穴」歯石をとったら終わり ではない

今までの内容を見ていくと「歯石を落とすだけでは歯周病対策にならない」「目に見える歯石だけ落とせばいいわけではない」ということがおわかりいただけたと思います。
実はもうひとつ、歯石を落とすだけでは歯周病対策にならない理由があります。
それは歯石を除去した後のことです。
▼歯石取りで大事なこと
・目に見える場所の歯石を除去する
・歯茎に隠れた歯石を除去する
・歯石を取った後の歯の表面を研磨する
動物病院で歯石を除去するときには、目に見える場所の歯石だけではなく、歯茎に隠れている歯石の除去や歯石の付着予防のために歯の表面を磨く作業を機械で行います。
歯石を取った後の歯の表面は一見きれいに見えますが、歯の表面に細かい傷がついており研磨をしないと歯石を除去する前よりも歯石がつきやすくなってしまいます。
自宅で歯石をとるグッズはいろいろと出でいますが、歯周ポケットのケアや歯の表面を研磨まではできないので、一時的にきれいになったとしても歯石の再付着予防や歯周病対策の面からみると不十分な可能性があります。
歯石は自宅(歯ブラシやデンタルグッズ)で落とせるの?

では、自宅ではどういったデンタルケアを行えばいいのでしょうか。
いったん付着してしまった歯石は家庭内でのケアで落とすことは難しいですが、いろいろなデンタルケアグッズを使用して口内環境を清潔に保つことはできます。
自宅でできるデンタルケアの方法と注意が必要なデンタルケア商品をそれぞれみていきましょう。
▼家庭内のデンタルケア
・歯磨きシート
・歯ブラシ
・歯磨きジェル
・デンタルケアスプレー
・デンタル系のサプリメント
・歯磨きシート
歯石を落とすことはできませんが、細かく擦ることで食べかすや歯垢を減らすことができます。
歯周ポケットをケアすることはできないので、歯ブラシを併用するとよいでしょう。
抗菌作用が含まれているもの、シートの網目が細かいものがオススメです。
・歯ブラシ
歯石を落とすことはできませんが、食べかすや歯垢を減らし、歯周ポケットまでケアすることができます。
歯茎が腫れていたり歯茎が弱い子は毛が細くて柔らかい歯ブラシを選びましょう。
出血がある場合は、歯周病が進行している可能性があるので一度動物病院で診察を受けましょう。
・歯磨きジェル
抗菌作用や歯垢を落としやすくする成分が含まれている商品もあるので、歯ブラシと併用するとよいでしょう。
抗菌作用や菌の増殖を抑える成分が入っている場合、仕上げに歯茎に塗るのもオススメです。
・デンタルケアスプレー
最初に菌が作り出すバイオフィルムは抗菌剤を通しにくく、菌を落としにくくするとお話しましたね。
デンタルスプレーの中には、菌が作り出すバイオフィルムを壊しやすくする成分が含まれている商品もあります。
歯ブラシと併用すると、より口内環境を健やかに保ちやすいでしょう。
・デンタル系のサプリメント
お腹の中と同じように口の中にも「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」がおり、歯周病菌は悪玉菌に分類されます。
デンタル系のサプリメントは善玉菌を増やしていくことで、悪玉菌由来の悪臭を軽減したり、歯石除去後の再沈着を抑制する効果が期待できます。
▼注意が必要なデンタルケア商品
・歯石取りペンチ
・歯石取り鉗子
・スケーラー
・歯石除去を謳っている商品
自宅での歯石取りとしてペンチやスケーラーなどが販売されていますが、「日本小動物歯科研究会」からは犬の口腔内の知識がない、器具の訓練を受けていない者が歯石をとるのは非常に危険な行為であると注意喚起が出されています。
また、先ほどお話したように歯石を取った歯には細かいキズができているので、一見きれいになったように見えても歯石の再沈着がしやすい環境です。
「塗るだけで歯石が取れる」といった商品も目にしますが情報を鵜呑みにせず、歯石が気になったときは動物病院に相談しましょう。
▼こちらの記事もオススメです
無麻酔歯石取りは犬の体に優しい?高齢でも大丈夫?デメリットはないの?
>https://www.inutome.jp/c/column_7-50-34917.html

歯石がついているとついつい歯石を落とすことに一生懸命になりがちですが、正しい知識を身につけておかないと歯周病を悪化させたり、愛犬に怪我をさせてしまうこともあります。
今回ご紹介した内容を愛犬のデンタルケアにぜひ活かしてくださいね。
<参考URL>
無麻酔で歯石をとる?!日本動物歯科研究会
>https://ivypetclinic.com/_src/sc2858/93FA967B8FAC93AE95A88E9589C88CA48B8689EF814096B39683908C83X83P815B838A839383O82C982C282A282C4.PDF
<画像元>
Unsplash
写真AC

・(元)認定動物看護師
・一般社団法人日本小動物獣医師会 動物診療助手
やんちゃなミックス犬とおっとりトイプードルと暮らす。
大学在学中に「病気になる前の予防が一番大事」と気づき、
ペットフードやペットサプリメントの会社に就職。
「食」に関するさまざまな知識を身につける。
愛犬を亡くしたときに
「もっと色んな情報を知っておけば」と感じた後悔を
「他の飼い主さんにはさせたくない」との思いから、
ライター活動を開始。
「勉強になった・信頼・わかりやすい」を目標に情報を発信しています。

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