あなたが犬を選ぶときに重要視したポイントはなんでしょうか。
可愛さや稀少性が重要視されがちなペット選びですが、獣医療の現場からは極小犬やレアカラー犬の繁殖に関して多くの懸念の声が上がっています。
今回は「極小犬やレアカラー犬が抱える健康リスク」に関してご紹介していきますので、ペットを選ぶ時の参考にして頂ければと思います。
<目次>
「現場のリアル」獣医師の7割が極小犬・レアカラー犬の繁殖に反対

飼いやすさや珍しさから極小犬(成犬体重が4kg以下)やレアカラーの犬が近年人気です。
しかし、その犬たちの健康を守っている獣医療の現場からは、極小犬やレアカラーの犬の繁殖に関して反対の声が多く上がっています。
株式会社ペトリコウェルが獣医師(1,009名)を対象に「獣医師が感じる犬の健康問題」に関してアンケートを実施しました。
極小犬やレアカラー犬の繁殖に関して意見を伺ったところ、結果は下記のようになりました。
▼極小犬・レアカラー犬の繁殖について意見が近いものを選んでください(調査人数:1,009名)
▼極小犬の繁殖について
・反対(23.0%)
・どちらかというと反対(47.6%)
・どちらかというと賛成(23.6%)
・賛成(5.8%)
▼レアカラー犬の繁殖について
・反対(23.0%)
・どちらかというと反対(45.5%)
・どちらかというと賛成(26.8%)
・賛成(4.7%)
「反対」「どちらかというと反対」という意見を合わせると、約7割もの獣医師が極小犬やレアカラー犬の繁殖を好ましく思っていないという結果が浮き彫りになりました。
これほど多くの獣医師が繁殖に反対する理由はなんなのでしょうか。
次章でくわしく見ていきましょう。
「知らないと怖い」極小犬の健康リスク

同アンケートで極小犬の「健康リスク」や「診断の難しさ」を尋ねたところ、結果は下記のようになりました。
▼極小犬についてどんな健康リスク・診断の難しさがあると思いますか?
▼極小犬の健康リスク・診断の難しさ
・低血糖症のリスクが高い(81.7%)
・骨や関節が脆く、骨折や脱臼のリスクが高い(80.7%)
・気管虚脱や心疾患のリスクが高く、呼吸や循環系の問題が起きやすい(76.0%)
・低体温になりやすく、体温管理が難しくなる(76.7%)
・体が小さく薬や麻酔の調整が難しく、安全な処置のハードルが上がる(80.8%)
「低血糖のリスクが高い」「骨折や脱臼をしやすい」「気管虚脱や心疾患のリスクが高い」といった健康に大きく関わる項目になんと75%もの獣医師が「そう思う」と回答しました。
極小犬はどうしてこういった健康リスクや診断の難しさを抱えているのでしょうか。
極小犬が健康リスクや診断の難しさを抱えているのはなぜ?
▼健康上のリスク
極小犬はその小さい体ゆえに様々なリスクを抱えています。
体が小さいため貯められる糖の量が少なく、低血糖を起こしやすいです。
また下の図は「橈尺骨(前腕部分)」を骨折したときの体重をまとめたグラフですが、体重6kg以下が全症例(300件)の9割を占めており、体が小さいほど骨折をしやすいということがわかります。
心疾患のリスクを懸念する獣医師も多くいましたが、小さい心臓は心臓の弁(ドア)にかかる負担が大きく、加齢とともに変性が起こりやすいです。
多くの獣医師が極小犬の繁殖に反対なのは、こういった広範囲の健康リスクを伴う可能性が非常に高いからではないでしょうか。
▼診断の難しさ
体が小さいということは血管もその分細くなります。
検査の時に欠かせない採血や点滴といった医療行為もその分ハードルが高くなります。
また、少しの誤差が命取りになるので、薬の処方や麻酔時の管理も非常にシビアになります。
「小さくてかわいい」の裏には、より専門性が高く慎重なケアが獣医療の現場に求められるようになったという実情があるようです。
▼繁殖のリスク
小さい犬を作るためには体の小さい母犬を使うケースが多いです。
ですが、母犬の体が小さいと骨盤も広くありません。
そのため、難産になりやすく母犬や子犬の命に関わることが少なくありません。
また、難産になると出産後の回復も遅れるため、母犬自身の健康が損なわれるリスクもあります。
「珍しさの裏側」レアカラー犬の健康リスク

多くの獣医師が極小犬の繁殖に反対なのは、診察難しさや健康リスクの高さからでした。
では、レアカラー犬の場合はどうでしょうか。
レアカラー犬も極小犬と同様に、多くの健康リスクを抱えているようです。
▼レアカラー犬についてどんな健康リスク・診断の難しさがありますか?
▼レアカラー犬の健康リスク・診断の難しさ
・皮膚疾患のリスク(78.5%)
・遺伝的な視覚・聴覚異常が発生するリスク(79.9%)
・ホルモンバランスの異常や免疫機能の低下により、病気のリスクが高まる(78.1%)
・近親交配による遺伝疾患や神経系の異常が発生するリスク(78.4%)
・被毛や皮膚の色素異常が、病気の早期発見を妨げるリスクがある(80.1%)
「皮膚疾患が多い」「視覚や聴覚異常が発生するリスクが高い」「ホルモンや免疫異常のリスクが高い」といった項目に75%以上の獣医師が「そう思う」と回答しました。
極小犬と同様に獣医療の現場からは多くの懸念が上がっているようです。
レアカラー犬が健康リスクや診断の難しさを抱えているのはなぜ?
▼健康上のリスク
レアカラーの中には紫外線ダメージを抑えてくれるメラニンが足りないため、皮膚炎を起こしやすい犬もいます。
こういった犬は皮膚も弱いため、皮膚病が治りにくく炎症が慢性化してしまうこともあります。
またメラニンが足りない犬は、視覚に異常を抱える症例が見られ、色素の問題が網膜や視神経の異常と関連している可能性が示唆されています。
▼繁殖のリスク
特徴的なまだら模様を作り出す遺伝子をマール遺伝子と言います。
とても美しい毛並みですが、このマール遺伝子を持つ犬同士を交配させると、生まれた子犬に先天的な聴覚障害や視覚障害が高確率で発症すると言われています。
レアカラーの犬すべてにリスクがあるわけではありませんが、遺伝的背景を理解したうえで交配を行わないと先天的に問題を抱えた子犬が数多く生まれてしまいます。
「超小型犬・極小犬・レアカラー」を飼う時に飼い主さんが知るべきこと

これまでの内容を振り返ると、稀少性や小柄な見た目を追い求めた結果、犬たちの健康が脅かされ、獣医療の現場にも負担をかけているという実情が浮かび上がりました。
また、極小犬やレアカラー犬が抱える健康リスクや診察の難しさが周知されておらず、知らずに迎えた飼い主が大きな負担を強いられる可能性もあります。
では、極小犬やレアカラー犬を迎えたいと思ったときに、飼い主が知っておかなければならないことはなんでしょうか?
▼極小犬・レアカラー犬を飼う時に飼い主さんが知るべきこと
・健康リスクがあることを知っておく
・繁殖時に出産リスクがあることを知る
・優良なブリーダーを選ぶ
・「なぜほしいのか」を今一度考える
極小犬やレアカラーを飼うときは「骨折や脱臼をしやすい」「遺伝的な病気を発症する可能性がある」など発症しやすい健康リスクを把握しておきましょう。
定期的に健康診断に通い、病気の早期発見や満足のいく治療ができるように備えておきましょう。
また、極小犬の出産は母犬に負担をかける可能性があります。
需要が増えれば、悪質なブリーダーが利益目的で無茶な繁殖を繰り返す可能性があります。
その子犬や親犬が育ってきた環境にも目を向け「なぜこの子がほしいのか」をしっかり考えてから迎えるようにしましょう。

極小犬やレアカラー犬はとても魅力的な犬ですが、その裏には多くの健康リスクが潜んでいることがわかりました。
極小犬やレアカラー犬を迎えたいと思っている方は、今回ご紹介した内容を考えるきっかけのひとつにして頂ければと思います。
<参考URL>
日本人が大好きな「超小型犬」は病気になりやすい? 獣医師の警告
>https://gendai.media/articles/-/77916
犬の橈尺骨骨折300症例の検討 名古屋動物医療センター
>https://namc.co.jp/shikkan/shikkan-956/
小動物の遺伝性疾患に関する考察 日本獣医師会
>https://jvma-vet.jp/mag/06110/a10_1.htm
<画像元>
canva

・(元)認定動物看護師
・一般社団法人日本小動物獣医師会 動物診療助手
やんちゃなミックス犬とおっとりトイプードルと暮らす。
大学在学中に「病気になる前の予防が一番大事」と気づき、
ペットフードやペットサプリメントの会社に就職。
「食」に関するさまざまな知識を身につける。
愛犬を亡くしたときに
「もっと色んな情報を知っておけば」と感じた後悔を
「他の飼い主さんにはさせたくない」との思いから、
ライター活動を開始。
「勉強になった・信頼・わかりやすい」を目標に情報を発信しています。

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